二学期半ばのこの時期、保護者の皆様や生徒達から最も多く相談を受けるのが今回のテーマ「文理選択」です。1年生もまだ終わっていないこの時期に、進学先はおろか将来の職業までも決めかねない選択をしなければならないというのは生徒にとって酷な話ですが、高校のカリキュラムを考えるとしょうがない面もあります。そこで今回は、文系・理系の進路をどのように選択すべきか、さらに各教科内の科目をどう選ぶべきかについて、いくつかの考え方を紹介したいと思います。

文理選択1 とりあえず理系は危険

文系、理系の選択についてまず理解しておきたいのは「理系から文系へのシフトは比較的簡単に可能だが文系から理系へのシフトは難しい」というもの。これはよく知られている知識なので、多くの生徒が「よく分からないからとりあえず理系に行っておけばなんとかなる」と安易に理系を選ぶ傾向があります。近年はなりを潜めているものの、長く「文低理高」という(就職に有利といわれる)理系人気が続いたことも原因の一つでしょう。しかし、これらの考え方はあまり効果的とは言えません。これまでにも「とりあえず理系」の生徒を数多く見てきましたが、うまくいかず、散々苦しんだ末に高3で文系に転向している生徒が多いのが現状です。

「とりあえず理系に行っておけばなんとかなる」

この考え方の危険なところは高2段階の負荷をあまり考えていないところにあります。典型的な公立型のカリキュラムの場合、高2では数学ⅡBを文理ともに学びます。ただ、学校の授業進度とは関係なく、理系の生徒は半年ほど進度を速めて自学自習する必要があります。というのも、高2の二学期からは数学Ⅲを自分で進めていかなければならないからです。学校の授業では高3から始まる数学Ⅲですが、正直なところとても半年(高3の二学期からは過去問演習が始まるため、新たな知識を学ぶのは正味高3夏休みまで)で終わるようなものではありません(実は、私立中高一貫校が中学時から数学のカリキュラムを早める理由の一つはここにあります)。高2の二学期から高3の一学期までの一年間をかけて数学Ⅲを攻略していくためには、数学ⅡBを早めに終わらせておく必要があるのです。

ここまで見てきたとおり、特に理系科目(特に数学)に興味を感じておらず、得意でもない生徒が「とりあえず理系」をしてしまった場合、高2段階の自学自習がまず不可能になり、高3では数学Ⅲの知識習得が冬までずれ込み、過去問演習をほとんど積まないまま入試本番を迎えることになります。また、理系の場合理科科目は「物理」「化学」を選択するのが王道ですが、特に「物理」は数学力と密接な関係があります。数学でつまづいた生徒が物理は問題なくできるというのは稀です。つまり、理系の主力教科である数学と物理、どちらも崩壊したまま受験を迎えることになりかねません。

「就職に有利だから理系」

この場合の就職に有利とは企業の研究職への就職を指すものですが、これも生徒達の多くが誤解しているところです。というのも、企業の研究職への就職が比較的楽なのは「最難関〜難関上位大学」の「大学院」の「企業とのつながりが強い研究室」所属の学生に限られるからです。近年では研究職の募集は大学院を出ていることがほぼ必須となりつつあるため、正直なところどこの大学であっても学部で卒業した生徒のほとんどは文系の学生に交じって就職をすることになります。シンプルにまとめると、「東京大学理科一類で入学し、工学部に進学し、大学院で専門的に研究をした学生」や「東京理科大学の理学部物理学科を卒業し、同大大学院で専門教育を受けた学生」のような、そもそも高校時に文理選択で迷うことなく理系一択だったずば抜けて優秀な生徒が「就職に有利」なだけであり、理系に行けば全員が就職で有利になるわけでは全くありません。

文理選択2 私立文系3教科の罠

安易に理系を選択することの危険性を上述しましたが、今度は文系についても触れていきます。文系の場合多いのはとにかく「負荷を減らす」選択です。ここでは勉強する科目を絞ったときに受験にどのような影響が出るかを見ていきましょう。

1〜2科目に絞った場合

近年の大学入試は非常に多様化しているため、行きたい大学のレベルを考えなければ「英語」あるいは「国語」の一教科のみで受験することも可能です。ただし、河合模試偏差値で50以上のいわゆる有名大学になってくると「英語」「国語」「社会一教科」の3教科を必要とする場合が多い傾向にあります。一部有名大学では2科目のみで受けられる試験を設定していることがありますが、基本的に科目を絞った場合難度は上がります。例えば、国語と社会で受けられる試験には、英語はとても苦手だけど国語と社会は“非常に”得意な生徒が殺到するため、合格最低点が大きく上がってしまうのです。

3科目まで絞った場合

おそらく最も多いのがこの3科目に絞った場合でしょう。コース制の学校の場合「私立文系」といった名前がついていることが多いです。3科目は「国語」「英語」「社会1科目(日本史・世界史のどちらかがほとんど)」となります。3科目に絞った場合の問題点はシンプルに、経済・商・経営系学部と社会学部系で受験できないところが多くなる点にあります。少し前までは私立であればどこでも国・英・社3科目での受験が可能でしたが、近年では「数学」を必須とする大学がどんどん(特に上位大学の経済・社会系が強いところで)増えています。よって、数学をやっていない時点で経済系、社会学系学部の選択肢が大きく狭まることを覚悟しなければなりません。また、経済・社会系の場合大学入試は大丈夫でも、入学後の勉強が非常にきつくなることにも留意しておく必要があります。

私立文系3科目で問題なく目指せるところは

「文学部」「法学部」「国際系(経済・社会分野を含まない)」「外国語系」あたりになります。近年大人気の国際系学部については注意が必要です。国際系学部と言うと語学系と近しい存在と勘違いされますが、中身は国際的な経済関係の理解であったり世界各地域の社会学的分析であったりと、経済学部や社会学部に属していてもおかしくない内容を扱うところが多くあります。こうしてみていると、いつの時代も生徒に大人気の経済・社会系を抜いてしまうと途端に志望校選択の幅が狭まってしまうことが分かるでしょう。

文理選択3 おすすめの選択は?

文理選択の正当な選び方はまず「学びたい学問」と「将来の志望・職業」から逆算することです。しかし、高1の終わりの段階でそれらが明確になっていない生徒が多いのも事実です。その場合どうすればよいでしょうか。精密な答えは生徒一人一人の性格や教科理解度に絡むため一つに絞れませんが、比較的安全なのは「英語」「国語」「社会(日本史か世界史)」「数学(文系)」の四教科をやっておくことです。特に数学は高2で学ぶⅡBに重たい単元(微分・積分など)があり、これをうまく乗り越えられるかがリトマス試験紙の役割を果たします。行けそうであれば場合によっては理系に転向することも可能ですし、無理であれば経済・社会系ではない純文系へのシフトを考えます。ちなみに、純文系にシフトした場合でも高2まで数学を学んだ経験は生きてきます。どの教科に? それは国語です。現代文の本文となる評論には科学的思考・数学的思考を土台として書かれたものが頻出します。文学部の試験であるにもかかわらず、微分積分がどういうものかが分かっていないと文章の意味が分からないような文章が出題されるのです。また、GMARCH上位〜早慶レベルになると、純文系学部であっても合格者のほとんどが国公立第一志望で国立型(数学をやっている)の勉強をしてきた生徒達で占められることから、大学入学後のことを考えると数学をやっておいて損はないでしょう。

保護者の方に知っておいていただきたいこと

長々と書いてきましたが、文理選択のポイントになるのはやはり数学との関わり方でしょう。特に数学が苦手な場合、無理に理系に行くと非常に苦しむことになります。かといって、文系に進んで完全に数学を「切って」しまうと志望校の幅が大きく狭まります。

では、数学が苦手な生徒はどうすればいいのか? 

私はやはり文系3教科+数学(国立文系型)で行くことをおすすめします。というのも、理系で数学をやるのと文系で数学をやるのではプレッシャーのかかり方が大きく異なります。理系における数学は主力教科中の主力教科ですから、それができないとなったときの自信喪失、焦り、不安は非常に大きくなります。一方で、文系の数学の場合少々ラフな言い方をすれば「そこそこできればいい」のです。込み入った問題が解けなくても、各単元が「なにをやっているのか」を理解できていればそこまで問題ありません。この数学の立ち位置の違いを考えると、文系3教科+数学(国立文系型)に落ち着きます。

数学が得意な生徒の場合、文理選択は国語が得意かどうかで決める生徒が多いと思いますが、これもそこまで気にする必要はありません。現在の大学入試においては国語といっても評論文のみしか出題されないところも多くなっています。そして、評論文は“数式を日本語に置き換えた数学”といってもよいくらい論理的な文章で、出題者も生徒が論理的に読解できているかどうかを非常に重視する傾向にあります。よくある「登場人物Aさんはこのときどう思っていたでしょう」というような問題はほぼ出てきません。よって、数学的思考に秀でた生徒は高3段階で評論解法を体系的に学ぶと一気に点数を伸ばします。ですから、もし経済系や社会系を志望している場合は安心して文系に進ませてあげてください。

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