高校の勉強と中学の勉強、その違いとは

生徒の皆さんは高校入学から約一ヶ月から過ぎました。本来であれば入学式やオリエンテーション、部活動の勧誘や研修など様々なイベントがあった4月ですが、このコロナ禍によって学校自体に登校できない状況になっています。保護者の皆さまの中には、お子さんがやっと高校入試を終えてほっと一息、と思われる一方で、学校が再開されない中でどのように勉強を進めさせれば良いのか、あるいは学校から指示された映像授業への取り組みはどうすればよいかと不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

ただ、どのような状況であれ、たとえ実際学校に登校できずとも、すでに生徒達の立場は高校生へと変わっていますから、否応なく高校生活を進めていかなければなりません。

今回は、この「高校生活への適応」を勉強の観点から見ていきます。中学校から高校への進学において、あまり目立たないにもかかわらず非常に大きな変化が生じるのが勉強面です。クラスで授業を受けて定期テストを受けてというスタイルは中高変わりないため気づきにくいですが、実は中身はほぼ別物。中学時代の感覚で勉強を進めた場合、遅くとも高2、早ければ高1の終わりには行き詰まってしまう可能性があります。そうならないためにも、この1学期最初の段階から中高の違いを理解し、「適応」を目指して欲しいと思います。

中学校と高校の性質の違い

高校への進学率が98%となり、世間的にも進学するのがあたりまえの現在ですので、義務教育である中学校との差異を感覚的に把握することはできません。しかし、そこには厳然とした差異があります。原則に立ち返れば高校はあくまでも「自分で選んで行くもの」であり、強制される進路ではありません。生徒の側にそれが言えるのと同様、学校側にも同様のことが言えます。どんな生徒であれ受け入れざるを得ない中学とは異なり、高校側は「うちが嫌ならやめてもらってもよい」という切り札を持っています。もちろん現実的にはそう簡単に切ることは出来ない札ですが、これのあるなしで力関係が変わってくるのは事実でしょう。

この中学校と高校の立場の違いは授業や生徒指導など生徒の日常生活の様々な側面に微妙な影を落としています。義務である中学校では学校は生徒を選ぶことができませんから、授業も生徒指導もできる限り多くの生徒にマッチしたものを提供しなければなりません。しかし高校では「うちの方針が嫌ならほかをどうぞ」というスタンスが極論可能になるのです。

例えばある生徒(学力標準層)が学校の授業レベルが高すぎてついていけないとしましょう。中学校であればこれは問題ですので、先生側の改善が求められるところです(現実にはそうならないことも多いですが…)。しかし、高校ではその必要はありません。「ついてこられない生徒が悪い」「もっと努力しろ」。原則論から言えばそう言われてもしょうがないのです。

この「冷たさ」は実際のところ様々な擬態で覆われていて、ストレートに出てくることはほとんどありませんが、一皮むけば厳然と存在します。質的に見ると、高校は中学校よりもむしろ大学に近いといえるでしょう。

高校というシステムの「性質」に合わせた生徒のスタンス

塾の講師として高校生を学校の外部から指導してきた経験から言うと、このような中学と高校の質的差異を入学当時からしっかり理解して活動できる高校生は非常に稀です。そしてその稀な生徒達はほぼ間違いなく難関大学に合格していきます。

ほとんどの生徒達は塾の講師によく学校の愚痴をこぼします。「授業がつまらない」「課題多すぎ」「丁寧に教えてくれない」「授業が分からない」など、列挙すると紙面が埋まってしまうほどバリエーション豊かです。保護者の皆様も同様の愚痴を今後ご家庭でお聞きになることも多いかもしれません。

我々講師はこれらの愚痴に対してこう答えます。「じゃあ、その問題を解決するために君がうごけば?」。

かなりきつめの答えですね。しかし、そもそも学校の基本スタンスは「定められた内容を教えます。学ぶ機会を与えます。うまく使ってくださいね」というもの。いうなればセルフサービスのフードコートです。食べる場所と食べものは用意されていますが、お店の店員さんは料理を持ってきてはくれません。食べたいものを自分で取りに行き、自分のペースで食べ、お会計をして出て行くだけです。その店で「早く食事を持ってきて!」「おれ(わたし)が食べたいものを推測して持ってきて」と言ったらどうなるでしょう…。

フルサービスのレストランからセルフサービスのレストランへ。自分が入ったレストランの「質の違い」にいち早く気づけたお客さんは即座に食べ物を取りに行き、食べたいものを自由に食べて満足します。気づくのが遅れたお客さんはいつまでも文句を言い続け、結果として何も食べられずに終わります。

正直なところ、この違いに最初から気づけというのは生徒に酷です。なぜなら学校側は露骨にこの違いを説明せずに広報するからです。また、先生方も実際には生徒になんとか満足して欲しいと日夜努力しています。よって多くの学校は一見「フルサービスのレストラン風」なのです。しかし、構造的には「セルフサービスのレストランが営業努力でプラスのサービスをやっている」といったところ。この状況が良いか悪いかはさておき、現状多くの学校がそうなっています。であるならば、今できることはこの状況に合わせることしかありません。

高校というシステムの「性質」を理解した上で、生徒が持つべき意識は以下のものです。

  1. 学校は生徒の欲求や不満、疑問を察してくれないし、それを察する義務もない
  2. 充実した学校生活を送りたければ自分で主張し動くしかない

なんとなくおわかりかもしれません。この二点は一言で言えば「大学生の普通の感覚」です。高校は質的に中学よりも大学に近いと書きましたが、その近さはこんなところに現れてきます。ここまでお読みいただいて、おそらく「高校って冷たいところなんだな」とお感じになったかと思います。しかし、生徒の立場から見れば「学校に必要以上の期待をしない」というひんやりした意識が望ましいともいえます。

「過度に期待しない」勉強姿勢

授業の受け方

過度に期待しないで授業を受けるとはどのようなことでしょうか。それは、授業内容の重要なポイントを自分で探す意識を持つということです。

中学時代までの授業は十分に生徒に配慮されたもの(配慮されているべきもの)でした。先生は筋道立てて内容を説明し、重要な部分はチョークの色を変えて板書し、何度も繰り返し話し、とできる限り生徒が内容を理解しやすいよう工夫していました。そしてそれが「当然」であり、そうあるべきものでした。

しかし高校では違います。一本調子の口調で説明され板書はメモ書き程度の白一色。重要なところもそうでないところも均等に流される。そのような授業でも「しょうがない」のです。このような授業においては受ける側のスタンスがとても重要になります。

  1. 先生が力点を置こうとしているところや結論を探りながら聞く
  2. こぼれ話や例え話は常にその価値を図って聞く
  3. 授業全体の展開を意識する

この三点を意識して欲しいと思います。

1については普段の会話と同じです。他人と話をする場合我々は「どんなオチがつくんだろう」と無意識に考えながら聞いています。そしてさらに「この人が主張したいことはなんだろう」と、話の内容を超えて話し相手の心の中を想像してもいます。それを授業の中で先生相手に行うのです。

2は聞き流すところとじっくり聞くところの強弱についてです。授業時間中は案外に忙しいもの。板書をする必要もあれば問題を解く必要もあり、重要な先生の発言をメモする必要もあり、と、本気で授業を受けた場合結構体力を消耗します。それは先生も分かっているので、生徒が適度に息抜きできる無駄な時間をあえて作っている場合があります。その時間は大抵「こぼれ話」「雑談」の形をとりますが、これが意外とやっかいです。実はこの雑談の中にかなり重要な知識が含まれていることがあります。

3は少し難しいかもしれませんがやる価値はあります。先生方の多くは自身の授業の展開パターンを持っています。例えば「雑談→宿題チェック(口頭確認からプラスアルファ知識の解説へ)→本題前雑談(本題につながる内容)→本題(例示と質疑応答から問題を浮き彫りにし、生徒に試行錯誤させる)→結論」といった形です。このパターンを意識していると現在自分がどのフェイズの内容を聞いているのかわかり、結果として「聞くべきところ」と「聞き流すところ」を区別することが可能になります。

余談ですが、難関大向け塾の講師はあえて「超不親切な授業」をやることがあります。それに対応出来る生徒とそうでない生徒を見極め、指導方針を変えていくのです。高校入試時偏差値が65〜70の生徒たちに高1スタート段階でやってみた場合、対応できる生徒は大体3〜4割といったところです。

ノートの取り方

ノートは黒板のコピーではありません。黒板に書かれた内容が一度頭に入り、再構成されてアウトプットされたものであるべきです。なぜなら、先生が完璧な板書をしてくれるというのは「過度の期待」だからです。

難関大に受かる生徒とそうでない生徒がくっきり分かれる最大のポイントはこのノートの取り方でしょう。黒板のコピーよろしく内容をきれいに再現して書く生徒の場合、その成績の伸びは完全に先生の板書のクオリティに依存してしまいます。ある程度選択の自由がきく塾とは異なり、学校の場合先生を選択することは不可能ですから、運悪く(その生徒にとって)微妙な板書の先生に当たってしまった場合一年間その教科を棒に振ることになります。三年間しかないうちの一年間を浪費するわけですからダメージは非常に大きいものになります。

一方で再構成出来ている生徒は先生の板書クオリティに左右されず、自分なりの書式をどの教科、授業でも貫いています。無駄な記述やすでに自分は理解している内容を写す必要もないため時間に余裕ができ、その余裕を授業を聞くことに使えるのです。

この二者の差は非常に大きいため、高三段階で気づいても手遅れになっていることがほとんど。高一段階から以下の点を意識して再構成を学んで欲しいと思います。

  1. 授業本筋とこぼれ話(プラスアルファ知識)を分けて書く
  2. 内容説明は自分の言葉でまとめ、例が思い浮かぶ場合はそれを付け足して書く
  3. 分かっていることを「とりあえず写しておく」のをやめる
  4. 自分が疑問に思ったことを必ずメモしておく

ほかにも様々なやり方、レイアウトがありますが、とりあえずはこの四点となります。

宿題・課題

宿題や課題は常に「なぜやるのか」「やった結果なにを得られるのか」を意識して取り組む必要があります。例えば数学の問題演習が宿題となった場合、「先生はなんのためにこの課題を出したのか」を考えます。そうすると、「これは今日やったあの計算方法に慣れるための練習だな」と気づきます。すると、計算方法を意識して取り組むことになるため、効果が確実に上がります。

あるいは、その目的をすでに自分が達成してしまっている場合もあるでしょう。上の例を引くなら授業で習った計算方法をすでに完全に習得している場合です。その場合には時間をかける必要はありません。答えを参照しながら進めるのも一つの手です。答えを見るというと「ズル」していると思いがちですが、答えと途中式を見ながらプロセスを確認するのは立派な勉強法です。特に高三時、問題量をこなさなければならない一学期に重宝します。途中式を見ながら論理展開を確認し、式の理由が分からなくなったらそこを重点的に潰すことでより効率的な知識習得が可能になります。もちろんなんとなくのフィーリングで「ここはもう分かっているから」と判断するのではなく、最初の何問かを試しに解いてみて、確実に習得しているかを確認しておく必要があります。

宿題・課題に取り組む上でのポイントは以下です。

  1. 何を目的とした宿題・課題なのかを考える
  2. 「攻略すべき」ものか「処理すべき」ものかを考える

宿題や課題が生徒一人一人のニーズにぴったりあっていることはまずありません。クラス全員に出されるものですので、当然その内容は「平均的」なものとなります。つまり、場合によっては自分のニーズにぴったりな出題、場合によっては自分にはあまり必要ない出題となります。前者はよいとして、後者の場合は難しいところです。なかなかはっきり書くのは難しいのですが、できる限り「処理」してしまうことをおすすめします。例えばゲームのレベル上げ作業のように流れ作業でこなしていくようにしてください。

宿題や課題は学校から出される明確な「指示」ですが、指示されているのは「こなすこと」です。どのようにこなすかは生徒次第であり、生徒の権利でもあります。ここを「100%の力ですべての宿題・課題をこなすのがよいこと」と勘違いしてしまうと高校生活は非常にきついものになります。高校生は授業や部活動、友人との交流に加えて受験勉強も進めなければならないのですから、基本的に時間は欠乏気味です。にも関わらず、自分のニーズと完璧にフィットするはずがないものを完璧にこなそうとしたとき、生徒はほかの何かを犠牲にするしかありません。そしてその犠牲は「無駄なことを延々やらされた」という被害者意識につながってしまうでしょう。

保護者の皆様へ

ここまで中学校と高校の性質の違いから展開する勉強法の違いについて説明してきました。この内容は保護者の皆様にとっては、ひょっとすると「どこかで聞いたことがある」ものだったかもしれません。

ですがあえてここでもう一度書かせていただきました。

その理由はシンプルです。上述の内容は塾で高一の保護者の方とお話しするときに最も多く相談を受けるものだからです。「学校の授業の不満」あるいは「学校の勉強をちゃんとやらせたい」。どちらもあります。お話を聞いていると前者は学校に過度の期待を抱いているところから来ており、後者は勉強のやり方を中学版から高校版にアップデートできていない(生徒・保護者ともに)ところから来ています。特に後者は保護者の方のご理解がとても重要になります。保護者の評価軸がズレていた場合、生徒(特に努力家でしっかりとした生徒)が現実と理想の板挟みに苦しむことになるのです。例えば最後に書いた課題。真面目な生徒であれば一〜二ヶ月もすれば課題の一部が自分のニーズに合っていないことに気づきますが、無駄なものまで完璧にこなすことが「正しい姿勢」であると強く言われた場合、生徒は真面目であるがゆえに期待に応えようとして、結果体力の限界を超えてしまうでしょう。そのような悲劇を避けるためにも今回の内容をお伝えしました。

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「勉強計画」「問題点の分析」「生徒の状態判断」の三本柱で志望校合格に導きます。

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高校三年生で模試偏差値50以下の状態から本格的な勉強を始め、東北大学文学部・慶應義塾大学文学部・早稲田大学教育学部・学習院大学文学部など最難関大学に現役合格したエンライテック卒業生の体験談です

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