諸外国に比して日本の高校生活には日本特有のアクティビティがいくつかありますが、そのうちの最も大きいものが「部活動」でしょう。部活動は費やされる時間と熱意ともに非常に大きく、場合によっては勉強よりも存在感が大きいものです。運動系で特に花形のスポーツの場合、プロ顔負けのレベルに達することもあります。

正直なところ、大学入試の指導をする我々塾の講師にとって、部活動に対する意識は複雑なものがあります。生徒の勉強時間確保を考えるとそこまで深入りしてほしくない、一方で部活を通して学べる行動力や計画性、物事への取り組み方はとても貴重で魅力的なのでとことん頑張ってほしい。そんな相反する気持ちが入り交じるのが本音です。ただ、この二つの気持ちを突き詰めたとき、どちらに傾くかといえばやはり「部活を頑張ってほしい」の方でしょう。

我々は学内塾を運営する中で多くの部活動を指導する先生方と話をしました。その中には花形競技で全国レベルの名指導者の方も多く含まれますが、実際にお話をしてみると、部活動のレベルが高くなればなるほど、我々の勉強指導理念や考え方と先生方の指導理念がかなりの部分で一致していることに驚きます。やはり、勉強であれスポーツであれ、「論理的であること」「実行すること」「検証すること」という3つをできる生徒でなければ上位に位置するのは難しいのです。我々の経験から見ても、本気で部活に取り組んでいる(向上を目指している)生徒はいざ受験になったときに成績の上昇度合いが大きいことが分かります(もちろん勉強一筋のライバルよりも物理的な勉強時間は少ないため、現役では惜しくも志望校に届かないこともありますが、一浪したときの上位校合格率は非常に高いです)。つまり、部活動で熱心に活動した経験は勉強においても無駄にはならず、そこで得たメソッドをそのまま勉強に応用できるということです。

このような経験から、我々の学内塾では「部活動との両立」を推奨します。ただし、この「両立」にはいくつか気をつけるべき点があります。また、部活動主体から勉強主体へと切り替える時期についてもポイントがありますので、今月はそのあたりを書いてみたいと思います。

「両立」とはなにか

「文武両道」「勉強と部活を両立」。

とても耳障りがよい言葉ですので、近年ではほとんどの高校が宣伝文句として掲げています。そして、生徒も保護者の皆さんもそうであるべきと思っていますし、我々塾の講師も基本的にはそう考えています。

ただし、「両立」とはどのような状況をさすのか、という一点において生徒たちや保護者の皆さんの感覚と講師の感覚が大きく異なっていることが多いのです。

結論からお伝えすると、我々講師が考える「両立」とは

A)自分の将来から逆算して、勉強・部活の両分野において最良のリターンが来るように時間や労力を分配する

ことを指します。細目はいろいろありますが、簡単に言ってしまうと「“両分野で”犠牲を払う」ということ。

それに対して多くの生徒の感覚は

B)部活動の練習を行動の最優先とし、余った時間で勉強を“頑張る”

というものです。

このスタンスの違いがどのような状況を生むか、具体例を出してみましょう。

Aの場合:GMARCHレベルの大学に進学を目指すが現状は基準に遙かに届かない。一方部活動もハードな運動部に所属し、練習や試合が非常に多い。Aは大学合格に必要なレベルを満たすための勉強時間を講師と相談して割り出し、部活動以外の余暇を足りない時間の穴埋めに使用。それでも足りない分については睡眠時間を少し削る。部活動の練習と模試や塾での面談の時間がかぶった場合、それぞれの重要度を考えて状況に応じて片方を休む。その際、休む方については顧問の先生や塾の講師に理由をしっかり説明し、納得と応援を得る。

Bの場合:志望校はAと同様だが、部活の予定が問答無用の最優先であり、勉強の方のシビアさを認識していないため、空いた時間の活用も甘い。また、模試や塾での面談は部活動とかぶれば無条件に欠席。時間がない(という思い込みの)焦りから、自身の問題を周囲の環境のせい(時間がない、顧問の先生が厳しいのが悪い、模試を受けていないからレベルが分からない)にしがち。

ここまでお読みになって、Aについて「こんな大人のような高校生がいるか!」「そんな息苦しい生活をするなんてかわいそう」そう思われるかもしれません。しかし、実際に部活と勉強を「両立」して受験を勝ち抜いている生徒はAのタイプだけです。そして、Aのタイプはそのほとんどが、我々講師が驚くほど「大人」で、驚くほど「キツい」生活をしています。ただし、かわいそうとは全く思えません。なぜなら、彼らは端から見ても日々の生活が充実していてそれを楽しんでいるであろうことがよく分かるからです。

しかし、Aの生徒の場合も最初からそうであったわけではありません。高1から高2にかけて悩みに悩み、試行錯誤を重ねているのです。特に部活と勉強のどちらか片方を犠牲にするしかないシチュエーションでは、理由の説明の仕方、理解のしてもらい方を講師に教えてもらい、場合によっては予行演習をして顧問の先生のところに話しに行っています。そのような経験から生徒は「自身の重要な予定をできる限り早く確定し伝える」「いろいろな第三者に根回しに行く」など、まさに大人の姿勢を学びます。また、時間に関しても「分単位」で切り詰める練習を重ねます。短い時間を使う場合にはやるべきタスクも小刻みにしなければならないので、大きなタスクの分割法も学びます。このような試行錯誤はすべて大学入試で強烈な威力を発揮します。

一方で、Bのタイプの生徒も残念ながら多くいます。一件楽そうに見える彼らですが、実は後々つらくなるのはこのタイプなのです。大学受験を考えている場合、それがうまくいかない理由をいつしか部活に求めるようになりますから、最優先にしていたにも関わらず逆に心底打ち込むことができなくなります。また、勉強を諦め部活一本に絞る場合、逆に部活を諦め勉強一本に絞る場合もありますが、こちらもなかなかうまくいきません。この場合、自身で「部活をやりたい」「勉強をやりたい」とポジティブに決断したパターンに比して、切り捨てた方に対する未練が残りますし、場合によっては「本当はやりたかったのに○○のせいで諦めた」と、外部に問題の原因をすり替えることにもなりかねません。この○○の中には状況によって学校の先生、保護者、塾の講師、が入ります。

勉強体制への切り替え

高2の12月から3月の時期、それまで部活主体だった生徒が部活動を自主的に引退することが多くなります。この時期を超えた生徒は基本的に高3の夏まで部活を続けますので、問題はこの「プレ受験期の部活」をどう考えるかでしょう。

実際に我々講師にも生徒から多くの質問が寄せられます。それは異口同音に「○○大学を目指してるんですけど、部活やめといたほうがいいですか」というもの。この質問に対して我々はこう答えます。

「部活より勉強の方が“おもしろい”と感じて、“おもしろいこと”をもっとやりたいと思ったなら引退すればいいよ」

実は、生徒たちの質問は悩み抜いた結果であるというよりも、周りの雰囲気に流された「ふわっとした」ものであることが多いのです。高2の修学旅行が終わると、生徒たちの間では徐々に「そろそろ受験だよね」という雰囲気が流れ始めます。これ自体はよいことなのですが、こと部活に関しては「なんとなく“時期”だから」という選択はよくありません。なんとなくで部活を引退した場合、空いた時間で勉強をする生徒はあまり多くはありません。なんとなく部活をやめた生徒はなんとなくダラダラしてしまうのです。それもそのはず、受験勉強はスタート段階で壁があります。熱心に努力しているのにうまくいかないという失敗体験の連続とそこから来る「この程度の問題もできないのに志望校なんてとても届かない」という自信喪失。この壁は多かれ少なかれ本気で勉強を始めた生徒が皆経験するものです。しかし、この壁を一度越えると今度は自分が日に日にレベルアップしていく楽しみが待っています。その段階まで進んだ生徒は勉強すること自体に楽しみを覚え、そのための時間を欲するようになります。シンプルにまとめると「うまくいっていない時に時間を与えられても、その時間をうまくいっていないことの克服に使おうと思える生徒は少ない」というところでしょうか。

実際に我々の塾で早慶上理や旧帝大レベルの大学に現役合格する生徒の多くはこのプレ受験期に部活動を引退していますが、我々が一律にそう指導しているわけではありません。むしろ我々は「本当にやめる必要があるかよく考えろ」「イメージで時間がないと言わず、精密に必要時間を割り出せ」と指導しています。その結果、部活を高3の引退まで続けてGMARCHレベルに合格している生徒は多くいます。

まとめ

最後に、保護者の方にお伝えしたい我々の部活に対する考え方をまとめておきます。

  • 部活動と勉強の「真の両立」が必要であり、そのための苦労こそがまさに最良の勉強
  • 両立によるハードさを「かわいそう」と感じず、忙しさを評価し、後押しする
  • 部活引退は「勉強が波に乗っている時期」が効果的。勉強しないから部活をやめろ、は逆効果

35年以上の指導実績

「勉強計画」「問題点の分析」「生徒の状態判断」の三本柱で志望校合格に導きます。

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偏差値55、60、65の壁を超える。生徒の能力にあったコースを展開。

高校三年生で模試偏差値50以下の状態から本格的な勉強を始め、東北大学文学部・慶應義塾大学文学部・早稲田大学教育学部・学習院大学文学部など最難関大学に現役合格したエンライテック卒業生の体験談です

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