多様化する大学入試
少子高齢化の進行とともに18歳人口も減りつつありますが、一方で大学進学率は上昇を続け、結果として人口減少を相殺するかたちで推移しています。さらに、2010年代後半からは首都圏への生徒一極集中を避けるため、「定員管理の厳格化」が実施されることとなり、現状十分に効果を発揮しています。
さらに、大学入試改革以降を見据えて、テストの点数だけではなく、より幅広い基準で生徒を選抜する流れが本格化したことも見逃せません。
旧来の大学入試はメインストリームの一般選抜と、「それ以外」の推薦入試というものでしたが、現在では上記の理由から、試験自体が多様化する傾向があります。
以下に現状の大学入試の種類をまとめました。
一般選抜使用教科
国立文系
共通テストの典型パターン
[国語(古文・漢文含む)]・[数ⅠA]・[数ⅡB]・[英語(ライティング・リスニング)]・[世界史B or日本史B]・[倫理政治経済]・[化学基礎]・[生物基礎]
上述したパターンが一般的です。一つ一つ見ていきましょう。
国語
ポイントは漢文が含まれているところ。私立文系の本試験国語では漢文を使わないところが多いので見落としがちですが、国立の場合共通テストで必要となります。
数学
大学によってはⅠAのみでよいところもありますが、メインはあくまでも両方受験。負荷が軽くなるからといって数ⅡBを切ると、共通テスト結果によって国立志望校を変更する際に選択の幅が極端に狭まるためおすすめしません。
英語
私立を中心に外部検定を取り入れる傾向ですが、今のところ共通テストは受験必須です。
社会
メイン科目(世界史B・日本史B・地理B)とサブ科目(倫理政治経済・政治経済・現代社会・倫理)で組むのが一般的(※メインとサブは正式名称ではありません。説明用に便宜的につけたものです)。メイン科目では、世界史・日本史のどちらかで受験するのがおすすめです。地理は私立本試験で使えない学部が多く、受験の指導法も確立されていません。世界史A、日本史AなどAのついた科目は使用できないことがほとんどです。サブ科目では倫理政治経済をおすすめします。大学によってはサブ科目に倫理政治経済しか認めないところがあります。一番のおすすめは「世界史+倫理政治経済」。世界史の文化史分野と倫理政治経済の内容が大きく被るため、相乗効果が期待できます。理科
物理基礎・化学基礎・生物基礎・地学基礎という基礎科目から2科目、あるいは物理・化学・生物・地学の応用科目から1科目選択のどちらかになります。応用科目の方は理系のメイン科目と同じ問題となりますので、理系科目にあまり時間を割けない文系生徒にとっては難しすぎる場合があります。文系だけど物理は大好き、といった場合を除き基礎科目2科目選択をおすすめします。
二次試験の典型パターン
- [国語][数学(Ⅲ含まず)][英語] ※経済系・社会系に多い
- [国語][社会(日本史・世界史・地理・倫理政治経済から1)][英語] ※文学系・語学系・国際系に多い
- [社会(日本史・世界史・地理・倫理政治経済から1)][英語][数学(Ⅲ含まず)] ※経済系・社会系に多い
国立理系
共通テストの典型パターン
[国語(古文・漢文含む)]・[数ⅠA]・[数ⅡB]・[英語(リーディング・リスニング)]・[倫理政治経済]・[物理]・[化学]
上述したパターンが一般的です。一つ一つ見ていきましょう。
国語
理系であっても国語が不要な大学はほとんどありません(地方中堅以下大にはあり)。理系であれ文系であれ、問題文の意図を正確に理解することは特に難関大受験者にとって必須のスキルです。特に理系の場合、問題が解けない理由の2〜3割くらいは「問題で聞かれていることの意味を誤読している」点にあります。無駄な教科と思わず真摯に取り組む必要があります。古文・漢文は理系の生徒にとって(文系でも!)つらい科目ですが、比較的暗記で押し切れる内容であり、覚える知識も多くはありません。
数学
ⅠA・ⅡB両方を受験することが求められます。数Ⅲは共通テストの科目にはありません。
英語
私立を中心に外部検定を取り入れる傾向ですが、今のところ共通テストは受験必須です。
社会
世界史A・日本史A・地理A・世界史B・日本史B・地理B・現代社会・政治経済・倫理・倫理政治経済の中から1科目を選ぶ形ですが、理科で言うところの基礎科目に近いA科目と現代社会・政治経済・倫理については使用できない大学学部もあります。また、世界史B・日本史Bは文系のメイン科目なので難度が高く敬遠されます。結果的に地理Bか倫理政治経済のどちらかを選択する生徒が多いのが現状です。
理科
物理基礎・化学基礎・生物基礎・地学基礎という基礎科目から2科目+物理・化学・生物・地学応用1科目、あるいは応用科目から2科目選択のどちらかになりますが、基礎科目は認めない大学も多いため、応用科目2科目選択がポピュラーです。選び方として「物理」「化学」の2科目か「化学」「生物」の2科目が一般的です。ただし、生物系と医療系以外の系統では物理が必須になる場合が多いため、「化学」「生物」を選んだ場合理学・工学系を受験することが難しくなります。一方で生物系・医療系では物理を使用することが可能なのでオールマイティなのは「物理」「化学」となります。物理を敬遠する生徒は理系でも一定数いますが、入学後必修になっている分野なので受験期に克服しておく方がよいでしょう。地学は二次試験で使えないところが非常に多いため、ほぼ選択されません。
二次試験の典型パターン
[数学(Ⅲ含む)] [理科2(物理・化学・生物・地学から1)][英語]
※理科2科目は[物理][化学]か[化学][生物]が一般的
私立文系
3科目型
- [国語][数学][英語] ※経済系・社会系に多い
- [国語][社会(日本史・世界史・地理・倫理政治経済から1)][英語] ※文学系・語学系・国際系に多い
- [社会(日本史・世界史・地理・倫理政治経済から1)][英語][数学] ※経済系・社会系に多い
2科目型
[国語][数学][英語][社会]から2科目
1科目型
[国語][数学][英語][社会]から1科目
総合科目型
様々な科目を使う総合問題 ※就職試験のような一般常識プラスアルファ程度の難度が多い。
特徴
偏差値的な難度が下がるのと比例して科目数も減っていく傾向にあります。GMARCH以上は3科目、日東駒専以下は2科目受験可であることが多く、日東駒専とGMARCHの難易度の質的な差となっています。また、一部大東亜帝国レベルとそれ以下の大学では1科目型〜総合科目型入試が行われています。
注意すべき点は
- 1科目まで絞ると受けられる大学学部が大きく減少するため危険
- 総合科目型は対策の立てようがないのでかえって難しい場合もある
- 科目が減れば減るほど高得点が求められる
科目としては、経済系学部の一部で数学を必修とするところが出てきました。純粋に受験戦略を考えるならばやっかいな変化ですが、大学入学後のことを考えるとむしろ生徒思いであるとも言えます。日本では文系に分類されている経済系学部が海外では理系に分類されることからも分かるように、大学での勉強は数学ができなければ話になりません。経済系への進学を考えているならば高校のうちに数学を攻略しておくことが絶対に必要です。
私立理系
文系に比して私立理系の試験科目はある程度定まっています。これは理系の学部自体が文系ほど幅広い難易度で分布しておらず、一定以上のレベルで固まっているからです。
3科目型
[数学(Ⅲ含む)][理科(物理・化学・生物から選択)][英語]
2科目型
[数学(Ⅲ含む)][理科(物理・化学・生物から選択)][英語]から2科目選択
1科目型
[数学(Ⅲ含む)][理科(物理・化学・生物から選択)][英語]から1科目選択
特徴
文系と異なり総合科目型の試験はありません。
文系と同様、科目数が少なくなるごとに受験偏差値が下がります。日東駒専レベルまでは3科目必須、大東亜帝国や3工大(千葉工業大学・東京都市大学・工学院大学)あたりからは2科目でも受験できるようになります。1科目型は非常に稀ですが地方の看護系などで散見されます。
3科目型では生物・医療系学部では物理を使用できない大学学部も存在しますので注意が必要です。
力を入れるべき教科
ここまで大学入試で必要とされる教科を見てきましたが、これはあくまでも「一例」に過ぎません。実際の使用科目についてはまさに大学学部学科ごとに千差万別であり、無数の例外が存在します。ただ、高2あたまの段階から「この大学のこの学部のこの学科に行く」とはっきり決めている生徒は非常にまれですから、ほとんどの生徒は自身の大学学部学科選択の可能性を最大限にすることを考えるべきでしょう。
国立にするか私立にするかについてはある程度めどが立っている生徒もいるかもしれませんが、「たくさんの科目をやるのは無理だからとりあえず私立」と考えたのであれば早計です。というのも、大学入試においては試験科目が多ければ多いほど一つ一つの科目は簡単になるという原則があるのです。
科目を絞れば一つの科目に力を集中できると考えがちですが、考えることは皆同じですから少ない科目ですむ試験形態に生徒が集中し倍率が上がります。倍率が上がると合格最低点も上がります。さらに、数学はからっきしだけど英語は自信がある、といった「スペシャリスト」が多くなってきますので、難易度は多科目受験とそう変わりません。
加えて、近年の大学入試における私立人気の過熱ぶりを見ると、実は国公立大はお買い得。難しそうというイメージだけで国公立を切り捨ててしまうと後で後悔することになりかねません。
では、「可能性を最大限にする」選択とは一体どのようなものでしょうか。それは「国立文系」「国立理系」のパターン。さらに、いろいろな選択が可能な理社についても最もスタンダードなパターンを選んでおくことです。
国立文系
[国語(古文・漢文含む)]・[数ⅠA]・[数ⅡB]・[英語(リーディング・リスニング)]・[世界史B or日本史B]・[倫理政治経済]・[化学基礎]・[生物基礎]
国立理系
[国語(古文・漢文含む)]・[数ⅠA]・[数ⅡB]・[英語(リーティング・リスニング)]・[倫理政治経済]・[物理]・[化学]
この2パターンの中からさらに優先順位をつけてみましょう。
学力完成のために必要になる時間を考えた場合、最も時間がかかるのは国語(現代文)でしょう。問題を解く際のテクニックだけならば高3の一年間で間に合いますが、本質的な能力という意味では小学生時代からの積み重ねが必要になります。様々なタイプの文章を読んできた経験と豊富な語彙は一朝一夕に身につくものではありません。よって、効率を考えるならばむしろ深入りしない方がよい教科です。
数学も国語と同様、これまでの経験がものをいいます。ものの見方、考え方のレベルから積み上げていかなければならない教科です。ただ、国語に比べると扱う範囲が純粋に論理的なレベルに収まりますので、国語よりはまだマシ、といったところ。
英語は国語と同様に「言語」ではありますが、大学入試では日本語でいうところの「中学生レベルの内容、いいまわし」までしか扱いませんので一発逆転が狙いやすい教科です。英語が苦手な生徒でも、英語の根本的なルール(文型)を理解した途端に一気にブレイクスルーできる可能性があります。
社会については、数年前までは「高3からで間に合う教科」でした。高3の夏あたりでなんとか基礎を終わらせて2学期にスパートをかけるのがセオリーで、実際に夏までは共通テストレベルの問題で2〜3割程度しか取れなかった生徒が国立難関(官立五大レベル)や早慶に合格していました。
しかし、近年の大学入試難化による合格最低点の上昇をうけて、このセオリーは崩れつつあります。現状を考えると、メイン科目(日本史・世界史)については高2の1年間である程度めどをつけておく必要があります。
サブ科目はこれまでと同様高3からで十分間に合いますし、理系の社会も同様です。理科の特徴は、メイン科目の物理・化学・生物の中でも特に物理に時間がかかるところです。物理は数学と強く結びついた科目ですので、その伸びはどうしても数学のそれと歩みを同じくします。よって、物理を選択する生徒は高2からある程度の時間を割いて勉強する必要があるでしょう。
文系で生物・化学を選択する場合高3からで構いません。ただし、基礎科目であっても物理を選択する場合には早めの準備が必要です。
まとめ
高2段階では
文系
英語・世界史or日本史
理系
英語・数学・物理 ※生物・化学選択の場合英語・数学のみ
に勉強時間の大半を割くことが望ましいでしょう。歴史と物理について少しやっかいなのは、「学校の授業の進度が遅く、未習分野を自習するしかない」ことです。それを嫌がって「学校の授業で習っていないから」と放置した場合、確実に受験に間に合いません。塾で講師に指示された課題参考書と学校の教科書を使って進めていく必要があります。
河合塾の模試では高2最後の第4回模試まで理社は試験科目にありませんので、定期テストを適宜活用して勉強を進めていきましょう。
数学についても注意が必要です。文系の場合、高2段階では自習で数学を進める必要はありません。学校の授業を完璧に理解する(特に各単元の“概念”)ことに全精力を傾けてください。問題演習が足りないため模試で結果はでませんが、3年で問題演習を始めてから点数が上昇していきます。
理系の場合高2の段階から「概念理解」と「問題演習」をどちらもしっかりやっておく必要があります。高3では数Ⅲの理解と演習に時間のほとんどを吸い取られてしまいますから、数ⅠA・ⅡBは高2である程度完成させてしまわなければなりません。
高校三年生で模試偏差値50以下の状態から本格的な勉強を始め、東北大学文学部・慶應義塾大学文学部・早稲田大学教育学部・学習院大学文学部など最難関大学に現役合格したエンライテック卒業生の体験談です
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