多様化する大学入試

少子高齢化の進行とともに18歳人口も減りつつありますが、一方で大学進学率は上昇を続け、結果として人口減少を相殺するかたちで推移しています。さらに、2010年代後半からは首都圏への生徒一極集中を避けるため、「定員管理の厳格化」が実施されることとなり、現状十分に効果を発揮しています。

さらに、大学入試改革以降を見据えて、テストの点数だけではなく、より幅広い基準で生徒を選抜する流れが本格化したことも見逃せません。

旧来の大学入試はメインストリームの一般選抜と、「それ以外」の推薦入試というものでしたが、現在では上記の理由から、試験自体が多様化する傾向があります。

以下に現状の大学入試の種類をまとめました。

試験(一般選抜)

試験形式と時期

一昔前まで、大学入試と言えばこの「一般選抜(旧一般入試)」を指しました。

一般選抜は1月中旬の共通テストを皮切りに3月上旬まで続きます。私立・公立・国立ともにメインの試験日は2月に集中します。上旬は女子大や中堅私大、中旬は理系私大やGMARCH、下旬に早慶と国公立の入試があります。

GMARCH以上のレベルの大学では、各学部の試験は一回のみですが、日東駒専以下の大学は「前期」「中期」「後期」などの名前で三回ほど実施するところが多くなっています。また、ほとんどの大学では、学部単独の試験に加えて、全学部の生徒が受験できる全学部日程をもうけています。そのため、例えばA大学B学部が第一志望の場合、「全学部試験」「前期学部個別試験」「中期学部個別試験」「後期学部個別試験」。さらに、共通テストの点数のみで合否を判断する「共通テスト利用入試」がありますので、計5回の受験が可能です。これらの試験は一回ごとに受験料がかかりますが、複数受験の場合受験料に割引がかかる大学が多いようです。※試験の名称は各大学異なります

国公立大学は共通テストを受けた後、2月25日に例年行われる前期試験、3月上旬に行われる後期試験を受験します。近年では後期試験を廃止して推薦入試に切り替える大学も出てきています。

総評

利点利点
合格者の「多数派」になれる受験勉強(教科数・難度)がたいへん
大学の授業についていける不合格の可能性がある
上位大学を狙える最後まで進路が決まらない
合格者の「枠」が大きい

近年、首都圏では特に難易度が跳ね上がっている一般選抜ですが、依然として大学入試の「王道」であることに変わりありません。一般選抜に必要な能力(計画力・実行力)は社会人として必要な力そのものですので、リクルートする企業側としては、その力を大学入試を通じて磨いた生徒はやはり魅力的です。また、一般選抜を「実力で突破した」という経験は生徒のその後の人生において大きな自信につながります。

一般選抜合格者は推薦・総合型選抜入試合格者に比べて平均的な学力が高い傾向にあります。これまでの大学入試では一般選抜がメインだったため、大学生の「マジョリティ」は一般選抜合格者でした。そして、大学の授業はこの「マジョリティ」である一般選抜合格者の学力レベルに合わせて構築されています。この状況は推薦・総合型選抜入試合格者の増加によって徐々に変化していくものと思われますが、すぐにがらりと変わるわけではありません。大学に入った後のことを考えれば依然一般選抜合格者は有利です。

利点が多い一般選抜ですが、欠点はシンプルに「難度」です。上述の通り、近年の首都圏一般選抜は「狂気の難度」になっています。5年ほど前までは存在したBFランク(倍率が1を下回る大学。事実上受験者全員合格)は、首都圏においては消滅したといってよいでしょう。上から下までまんべんなく、受験回数を増やし可能性を高める工夫が必要となります。

試験(総合型選抜)

試験形式と時期

総合型選抜(旧AO入試)はシンプルに言えば「大学側が自分たちの校風に合う生徒を恣意的に選ぶ」入試です。明確で公平な基準は存在しません。その時々の試験官が「この生徒はうちにあう」と思えば合格し、思わなければ落ちます。イメージとしては会社の「就職活動」に近いものと考えてください。

試験は主に高3の10月〜12月にかけて行われます。入試科目も千差万別ですが、基本は「面接」と「作文(小論文)」となります。なお、面接の前に志望理由書などを提出する必要があります。2020年の改革により、これまでの「知識・技能の修得状況に過度に重点を置いた選抜基準としない」という項目が“削除”されたため、今後学力試験が導入される可能性もあります。

総評

利点欠点
受験資格が必要ない入学後、勉強についていけない可能性がある
勉強以外の実績が使える明確な勉強法がない
“まぐれ当たり”がある受かったら進学しなければならない(大学が多い)
早く進路が決まる

国が推し進める「定員管理の厳格化」により、各大学は各学部の定員をオーバーしないように細心の注意を払って合格者を出す必要が出てきました。例えば、50人定員の学部があるとしましょう。100人合格を出して、そのうち50人が入学辞退(ほかに受けていた大学に合格し、そちらに進学する)すれば定員ぴったりになります。しかし、辞退者が40人であれば定員をオーバーしてしまいますし、60人であれば定員割れしてしまいます。前者の場合国からの補助金がカットされて損、後者の場合授業料が減って損となりますから、ここはぴったりを狙うしかありません。

ですが、入学辞退は生徒の都合なので、大学側が正確にその動向を読むことは不可能です。そこで大学側はこう考えました。「入学者数が読みづらい一般選抜の定員を減らして、読みやすい総合型選抜や推薦入試の定員を増やそう」。こうして総合型選抜や推薦入試の定員は増え続け、一般選抜に比して明確に「受かりやすい」状況が生まれています。

総合型選抜入試のメリットはまさにこの「受かりやすさ」です。また、学力試験のような明確な基準がないため、「なんかよく分からないけど受かっちゃった」というまぐれ当たりがあることも特徴の一つでしょう。

一方で、デメリットは「対策の立てようがない」点。まぐれ当たりがあるということは逆もあるということです。もちろん各大学学部によって大まかな傾向はありますが、一般選抜のように対策がメソッド化されていないため、合否が「読めません」。

学校型推薦

試験形式と時期

一口に推薦といっても、上記図のように内容は多岐にわたります。共通しているのは学校からの推薦(評定基準)が必要なところです。

試験の時期は高3の10月〜12月ですが、指定校推薦の場合9月の段階で高校内の選抜を終えるところが多いようです。

指定校推薦
大学から高校に推薦枠が与えられ、その枠内で高校が推薦した生徒を無条件にとる形式だったが、近年では不合格が出される場合も稀にある。

公募推薦
高校の評定を使って(大学が定めた基準を上回ることによって)出願する形式。学力試験を課すところも多く、不合格の可能性も高い。

特別推薦
学力以外の様々な実績を使って出願する形式。学力試験を課すところもある。不合格の可能性もそこそもある。

総評

利点欠点
合格が確約される(指定校推薦)入学後、勉強についていけない可能性がある
学力試験科目が一般選抜より少ない(公募推薦)明確な勉強法がない
勉強以外の実績が使える(特別推薦)受かったら進学しなければならない(大学が多い)
定期テストへの努力が生きる(指定校・公募)取れる指定校が決まっている(指定校)
早く進路が決まる。

総合型選抜入試の項で触れたように、定員管理の厳格化の影響で定員枠自体は増え続けていますが、今後飽和状態になる可能性が高いため「推薦でどこかに入ろう」と安易に考えるのは危険です。推薦入試の志望者が増えれば、これまではフリーパスだった大学でも生徒を選抜するようになります。そして、おそらく選抜方法は「学力試験」になります。

公募推薦については、どのレベルの大学を選ぶかで難易度が大きく変わってきます。GMARCH以上の場合ほとんど受からないので「試験が一回増えた程度」と考えた方がよいでしょう。日東駒専レベルでは難易度は多少下がりますが、やはり難関です。明確に受かりやすくなるのは大東亜帝国レベルからと考えましょう。

一般選抜冬の時代の受験戦略

ここまでお読みいただければおわかりの通り、大学入試は現状かなり「複雑」です。一般選抜だけでも何パターンも形式があるのですから、そこに学校推薦型選抜や総合型選抜を加えて、さらに複数大学を併願するとなると、我々プロ講師でも混乱してしまうほどです。

このような複雑極まりないシステムの中で、どのような入試プランを組むべきか。具体的なプランは担当の講師と生徒が相談して決めることになりますので、ここでは大きな方針だけをお伝えしておきます。

  1. 一般選抜をベースにプランを組む(総合型選抜・推薦希望であっても)
  2. 学校推薦型選抜・総合型選抜は「試験チャンスが一回増えるだけ」と考える
  3. 一般のみ、総合型選抜・学校推薦型選抜のみはやめる(=全部受ける)

3項目上げていますが、最も重要なのは3の「一般のみ、総合型選抜・学校推薦型選抜のみはやめる」です。一般選抜が難しいから総合型選抜・学校推薦型選抜で決めてしまおうと安易に考えて一般選抜に向けた勉強をしない場合、落ちたらリカバリーは効きません。時期は12月、メンタルの落ち込みも最悪で一般選抜まであと1ヶ月。このような状態で成績が向上することはありえません。

逆に総合型選抜・学校推薦型選抜を全く考慮しないのも(今の情勢下では)悪手です。学校の評定平均が悪い場合でも、総合型選抜であれば受験できるところはありますので、自分の志望大学に総合型選抜があるのならば挑戦するべきです。入念な対策は必要ありません。特に総合型選抜については、総合型選抜入試の項で説明したとおり、本質的に「基準のない」入試ですから、対策と言ってもできることは限られています。

つまり、正解は「あくまで一般選抜をゴールと考えてその対策を黙々と継続しつつ、しっかりと情報収集をして、総合型選抜・学校推薦型選抜で受けられるところはとりあえず受けておく」ことなのです。

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