高2は大きく分けて、1年からのダレを引きずる夏までと、受験に向けて動き始める夏以降に分かれます。公立高校の場合、GMARCH以上の大学を目指す生徒たちは一学期期末試験(7月)終了後に進学塾に入ることが多いのもその証左でしょう。ただし、夏休み中に盛り上がった気持ちは大抵9月にいったんしぼみます。9月は夏の疲れが現れるのに加えて、学校の文化祭や体育祭が行われる時期でもありますから、生徒たちが一種の虚脱感を感じるのは当然のことといえます。そして、この虚脱感を脱して本格的にもう一度エンジンをかけるのが10月です。10月になると学校でも受験に関する話題が増え、自然と意識が高まっていくでしょう。
この7月から10月までの時期をどう過ごしたかは、高3になって大きな影響を与えることになります。うまく波に乗れた生徒は高2の2学期、3学期を使って高2で絶対に押さえておかなければならない各教科の知識、思考を手に入れることができますから、高3では本格的に「受験レベル」の内容を進めていくことができます。一方で、ここで波に乗れない場合、高2レベルの知識習得が高3の1学期にずれ込むことになります。
では、受験に向けてエンジンをかける、とは具体的にはどうすることか。これはシンプルに「時間の確保」と「やるべきことの明確化」です。高2の夏以降は「学校の勉強以外の“自分の受験勉強”を進める時間」を毎日2〜3時間確保することを目標とします。そして、この2〜3時間の中でやるべきテキストを明確に定めます。
時間を確保し、やるべきことを明確にした上で生徒達は実際の勉強を開始しますが、それと並行してより抽象的な「理由」についても考えていかなければなりません。そもそも自分は何がしたいのか、なんのために勉強するのか、なんのために大学に行くのか。これらの問いはとても難しく、大人であってもなかなか答えが出せないものばかりです。しかし、確固としたものでなくても「とりあえずの答え」は出しておく必要があります。
今回はこれらの3つのポイントについて書いてみたいと思います。
時間の確保
まずは時間の確保です。高2の夏あたりの段階では、課題をこなすためというよりは受験勉強のラインを生活の中に作ることがその目的となります。つまり、やらなければいけない課題が出ているから2〜3時間勉強せざるを得ない、ではなく、2〜3時間やらなければいけないから、やるべきものを課題として出す、という感覚です。「課題が出ているからそれをこなすために時間を確保する」というパターンになってしまうと、裏返せば「課題が出ていなければ(あるいは終わってしまえば)その日はやらなくていい」になってしまいます。元々のコンセプトは「“毎日”(なにがあろうが)2〜3時間」ですから、これはまずいですね。
この2〜3時間の枠は継続することに意味があり、最終的にはそれがあることが当たり前の状況にしなければいけません。特に部活動の大会があったりイベント(体育祭・文化祭)があったり定期テストがあったりと、忙しければ忙しいほどこの枠を維持することの意義が大きくなります。というのも、他にどんなことがあろうが枠を維持するということは、受験勉強を行動の優先順位の不動の一位に置くという意思表示と同様だからです。
生徒達は2学期以降「受験に向けて頑張る」と言うようになります。しかし、残念ながら往々にしてそれは口だけに終わってしまいます。時折思い出しては宣言し、他の行事におされて挫折し、また思い出して宣言し、を繰り返しながら三年生になるのですが、この繰り返しは生徒の心にダメージを蓄積していきます。勉強をやろうと思っても失敗するという強固な失敗経験をすり込んでしまっているのです。
よって、我々が出す指示は「とにかくなんでもいいから毎日2〜3時間やる」。もちろんやるべき課題はしっかり指示しますが、その課題をやる気が起きない日は他の勉強に切り替えても構いません。そして、連続達成記録をできる限り伸ばすことです。一週間連続達成したら次は一ヶ月を狙い、と、「型」をとにかく作っていきます。そこには「受験に向けて頑張る」という意思表示は全く必要ありません。空回りするやる気も必要ありません。毎日顔を洗うように機械的に2〜3時間なのです。
高3になって生徒が苦しむことの一つに「主観と客観のズレ」というものがあります。高3になるまでほとんど勉強をしてこなかった生徒がいざやる気を出して毎日3時間勉強をしたとします。0時間から3時間ですから生徒本人の主観では「凄まじい努力をしている」となりますが、一般的なライバルの勉強時間(最低6時間)と比べてみるとそれでは全然足りません。足らないということは、意図したとおりに成績が上がらないということです。すると生徒の主観では「すごく頑張っているのに一向に成績が伸びない。自分には能力がないんだ(あるいは、学校・塾の指導が悪いんだ)」となります。しかし、現実にはシンプルに勉強時間が少なすぎるだけです。
このような状況を避けるためにも、高3ほど結果を出すことへのプレッシャーが少ない高2の段階で生徒の主観の「すごく頑張っている」を底上げしておく必要があります。毎日2〜3時間やってきた生徒の主観では、3時間勉強することは「普通のこと」に過ぎなくなるのです。
やるべきことの明確化
大学受験業界では、高2の終わりまでにこれを絶対にやっておかなければならない、というTo Doリストが厳然と存在します。指導する塾や予備校によって教材は違っても、扱っている内容は大体同じです。英語であれば文法・語法問題集をベースにした入試頻出文法パターンの習熟と標準レベル単語帳の暗記などですが、国語や数学、理社にも同様のものが存在します。
ただし、数年前まではこれらのリストはあくまでも難関大学(GMARCH以上)を狙う生徒のためのものであり、それ以下の大学を狙う場合には高3の夏まで期限を引っ張ることが出来ました。しかし、ここ数年の受験の変動から、現在では日東駒専レベル以上を目指す生徒へとラインが降りてきています。そしてこのTo Doリストは2020年の新大学入試以降も基本的には有効であり続けるでしょう。
このTo Doリスト対象者の拡大はかなり大きな変動です。これまで塾で「高2までに終わらせておくべきこと」という話をすると、生徒の一部は“そうはいっても無理だよね”あるいは“先生は大げさに言ってるけどなんとかなるでしょ”と言いたげな様子でいました。我々講師も、“とはいえやりようによっては高3からなんとかなる”と思いながら話していたのです。
しかし、正直なところ、もうなんともなりません。高3からの大逆転は難しい情勢になっています。よって、我々もこれまで本気でGMARCH以上を狙う生徒達に行っていたのと同じような厳しさと熱意で、これらのリストをなんとしてでも完遂するよう圧をかけて指導していきます。
理由を考える
最後に「理由」です。勉強する理由、大学を目指す理由などを考えることの重要性はおそらく議論の余地がないかと思います。「なんのために大学に行くのか」「なぜ学ぶのか」「なにをしたいのか」「どこの大学に行きたいのか」については、どこの高校でも進路イベントに組み込まれており、大学の教授や社会で活躍する卒業生の講話など、考える際の手がかりも用意されています。よって、ここではこの「理由」の重要性ではなく、実際に受験を戦っていく上での注意事項を書いてみましょう。
タイミングを間違わない
高2の夏以降勉強のスタートを切れない生徒と面談していると必ず出てくるのが「まだ何をしたいのか分からない(から勉強をする気になれない)」という悩みです。
生徒達はどうも ①やりたいことが決まる ②やりたいことにつながる勉強ができる大学が見つかる ③その大学に合格するために勉強する というプロセスが当たり前、あるいはそうあるべきと考えているようです。確かにこのプロセスは理想的ですね。ただ、高2の夏以降このプロセスを踏んで希望の大学に合格できるのは、現時点で旧帝国大学レベルに河合模試A判定が出るくらいの学力がある生徒だけです。つまり、このプロセスは、現状学力全国トップ層だけに許された贅沢品なのです。
現実的な戦い方としては、 ①とりあえず目の前の課題をこなす(行動する) ②大学入試の勉強を深める中で自分が面白いと思える学問分野を見つける ③その学問分野が出来る大学を探す
となります。内容で見た場合、高校三年間で勉強が最も面白くなるのは大学入試に向けた受験勉強です。高2まではどうしても勉強の土台となる個々の知識習得をせざるを得ません。それが、実際に入試に向けた勉強をしてみるとどの教科も深みが出てきます。これはよく誤解されるのですが、現代の大学入試においては国立であれ私立であれ、ひたすら知識を詰め込むだけの問題はまずありません。中堅以上の大学の問題はどこもよく考えられており(予備校がOEMで作成しているところもありますが、基本的に予備校が作る問題はかなりクオリティが高いです)、その問題に立ち向かうための勉強は決して無味乾燥なものではないのです。
そのため、多くの生徒達は大学入試の勉強をしていく中で、これまで隠れていた自分の本当の興味を発見していきます。就職に有利といわれてなんとなく国立理系を志望していた生徒が、センター国語対策で解いた論説文の内容に強く惹かれて法学部志望に転ずる、あるいはなんとなく物理が好きだと思っていた生徒が実は化学の方が面白いと思っていることに気づき化学系へ転向など例は枚挙にいとまがありません。
探し続ける・とりあえず決めてしまう
答えが出ないから勉強を始めないというのは下策ですが、理由を考えなくてもよいというわけではありません。受験勉強をやっていく中で見つかると上に書きましたが、それはあくまでも探していたからです。自分は何に興味があるのか、どうしたいのか、と探す姿勢がなければ、自分の興味のアンテナが反応しても気づくことができません。
そうは言っても見つからない、という生徒もいるでしょう。勉強自体の面白さよりも、大学に入りたいからその手段としてやっている、というパターンです。大学に入りたい理由は将来のため。これもありがちです。そして、このようなパターンは一見軽薄に思えますが、実は大正解なのです。というのも、とりあえずでも決めてしまえば、決めたその内容をたたき台にして考えを深めていくことができるのですから。
わたしはどうしても煮え切らない生徒には、面談のその場で問答無用で大学の学部学科を決めさせます。「君は明治大学の政治経済学部で決定ね。それを今後第一志望にして」と。すると一週間くらいして生徒の方から「やっぱり志望校を変えたいです」と言ってきます。「あれから調べたんですけど、ちょっと自分と合わないかなって…」と。
そもそも志望校の話をしているときは「将来やりたいことはある?」「とくにないです」「やりたい勉強は?」「それもとくには…」「大学になんでいきたいの?」「親が行けっていうんで」といった具合の生徒です。特に講師に反抗しているわけではなく、本当に何もない。そんな生徒が「自分と合わない」と言ってきたら、そこから話を深めていくことができます。
例えば、自分は“なんとなく”英語を使って海外で仕事がしたい、自分は“とりあえず”大学に行きたいから勉強する、○○大学はイメージがかっこよくて、○○大生と名乗りたいと“なんとなく”考えている。そんな答えでも問題ありません。勉強を進めるにつれ、とりあえずの答えは修正され、しっかりしたものに変わっていきます。危険なのはこれらの抽象的な問いに答えが出ないことを「勉強をしない大義名分」にしてしまうことなのです。
まとめ
最後に、保護者の方にお伝えしたいことをまとめておきます。
- 「枠」を作ることに全力を注ぐ。内容は次。
- 「やるべきこと」は明確に決まっている。「何をすればいいか分からない」の声が出たら基本的に言い訳。
- 「将来の志望が決まらない」のは当然。“勉強を始める→志望が見つかる”のがごく当たり前のパターン。
高校三年生で模試偏差値50以下の状態から本格的な勉強を始め、東北大学文学部・慶應義塾大学文学部・早稲田大学教育学部・学習院大学文学部など最難関大学に現役合格したエンライテック卒業生の体験談です
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